本実証は、通信遅延を大幅に低減するIOWN APNを活用することで、これまで物理的な隣接配置が必須とされてきたGPU(AIの演算装置)と大容量ストレージを分散配置し、「分散型データセンター」の構築と社会実装をめざす取り組みです。2025年11月から12月にかけて、福岡(GPU)-東京(ストレージ)間にIOWN APN実回線を敷設し、商用実装に向けた実用性評価を実施します。
【背景】
近年、生成AIの中でも大規模言語モデル(LLM)の普及により、AI開発基盤の需要が急激に拡大しています。AI開発環境としては、オンプレミス・クラウド環境のいずれの場合もGPU本体のみならず、演算結果の格納やジョブ投入などに用いる大容量ストレージの準備が不可欠です。データセンター内の物理的な設置スペースの制約を超えて柔軟に処理能力を拡張させたいというニーズや、学習用データや演算結果を自社施設内に格納・保管したいというニーズがある一方で、現状では通信遅延の問題からGPUとストレージの隣接配置が必須とされおり、装置増設の制約や、ストレージを自社拠点など特定の場所に保管したいという地理的制約に対応できないなど、柔軟なAI開発基盤の構築における将来的な課題が懸念されています。このため、高速大容量かつ低遅延で接続できる仕組みを導入することで当該課題を解決できると考え、この度、4社の連携のもと本実証を開始します。
▼AI開発基盤の構築における課題例
【事前検証の概要と結果】
事前検証として、2025年7月に福岡(GPU)-東京(ストレージ)間の距離(約1,000km)を想定した疑似遠隔環境でGMO GPUクラウドの性能テストを実施し、2つの試験タスクを安定的に完遂することを確認しました。
低遅延という特徴に期待される「分散型データセンター」の構築という具体的なユースケースにおいて、疑似遠隔環境での事前検証で得られた本実験結果および考察・分析は社会実装の可能性を高める重要な成果となりました。
事前検証の概要
・福岡のデータセンター内に遅延調整装置「OTN Anywhere」を設置
・GMO GPUクラウドを利用し、画像認識と言語学習の2つの試験タスクをさまざまな遅延量(福岡‐東京間を想定した15ミリ秒等)で実行し、遠隔ストレージ利用時のタスク完了時間の変化を測定・評価
事前検証の結果
・いずれのタスクにおいても、遅延条件の増加に伴いベンチマークスコアの変化を確認
・本検証で設定した福岡‐東京間相当の遅延条件(15ミリ秒)における性能低下は12%程度
『IOWN APN』を活用した疑似遠隔環境におけるGPU・ストレージ間接続性能テストの詳細と結果
URL https://internet.gmo/news/article/87/
【本実証の概要】
本実証では、次世代通信基盤「IOWN APN」の高速大容量かつ低遅延という特徴を活用し、福岡のデータセンターの「GPU」と東京のデータセンターの「ストレージ」による異なる拠点間構成の実現可能性を2025年11月から12月にかけて技術検証します。実施内容は以下を予定しており、実回線を利用することで、より商用実装に近い環境での実用性評価が可能になります。
・福岡のデータセンターと東京のデータセンターをIOWN APNで接続
・GMO GPUクラウドを利用し、画像認識と言語学習の2つの試験タスクを実行し、タスクの完了時間の変化を測定
・従来の拠点内の隣接時、一般的なイーサネット専用線接続時、IOWN APN接続時のタスク完了時間を比較し、商用実装に向けた実用性評価を実施
【各社の役割】
各社の役割
GMOインターネット | GMO GPU クラウドのGPU、およびストレージの提供 アプリケーション実装、ベンチマークテストの実行 |
NTT東日本 | IOWN APN 技術検証および実証環境の提供 |
NTT西日本 | IOWN APN 技術検証および実証環境の提供 |
QTnet | 福岡のデータセンター内の実証環境提供 |
【今後の展開】
この技術実証の成功は、今後のAIインフラのあり方に大きな転機をもたらすとともに、IOWN構想がめざす、現状のICT技術の限界を超えた新たな情報通信基盤の実現に向けた重要な一歩となります。また、IOWN APN(NTT東日本・NTT西日本の「All-Photonics Connect powered by IOWN」)を活用することで、高速大容量かつ低遅延な通信が可能となり、従来のクラウドサービスの枠を超えた新たな価値創造が実現され、GMO GPUクラウドのサービスの柔軟性や多様なAI活用ニーズに対応した革新的なソリューションを提供できるようになります。
今後は、実際の拠点間を結ぶIOWN APNの実回線を用いた本格的なフィールド検証を進め、GMO GPUクラウドの性能評価および商用実装への可能性を探ってまいります。また、本実証の成果を踏まえ、将来的には、世界最高水準かつ持続可能なAI基盤を実現し、また全国のさまざまな拠点や施設がIOWN APNで接続されると共に、当該AI基盤によって有機的に結ばれ、どこからでもAI基盤にアクセスできる分散型情報社会の構築を通じて、全国規模でのAIリソースの最適配置や災害に強い分散型社会基盤の実現など、新しい社会の礎となるインフラの共創をめざしてまいります。